ICLSコースとは
医療従事者のための蘇生トレーニングコースです。緊急性の高い病態のうち、特に「突然の心停止に対する最初の10分間の対応と適切なチーム蘇生」を習得することを目標としています。講義室での講義はほとんど行わず、実技実習を中心としたコースです。受講者は少人数のグループに分かれて実際に即したシミュレーション実習を繰り返し、約1日をかけて蘇生のために必要な技術や蘇生現場でのチーム医療を身につけます。
日本救急医学会では、一定の基準を満たしたコースに対して「コース認定」を行っています。コースの指導者を養成するためのワークショップ開催や、指導者の学会認定も行っています。
ICLSコースの名称について
「ICLS」とは「Immediate Cardiac Life Support」の頭文字を取った略語です。突然の心停止に出会った時にどのように対処すべきか、というコースの学習目標を端的に示しています。
心停止はどの医療機関のどの部署においても起こりうるもので、いったん発生すれば蘇生を開始するまで少しの猶予もありません。まさに「Immediate(すぐに、間髪をおかない)」な処置が必要となるのです。心停止直後の処置には、あらゆる医療者がチームの一員として参加し、蘇生を行うことが求められています。
ICLSコースでは、あらゆる医療者が身につけておくべき、蘇生の基本的事項を習得できるようにしています。
ICLSコースの内容
コースの一般目標
・突然の心停止に対して最初の10分間の適切なチーム蘇生を習得する。
コースの行動目標
・蘇生を始める必要性を判断でき、行動に移すことができる
・BLS(一次救命処置)に習熟する
・AED(自動体外式除細動器)を安全に操作できる
・心停止時の4つの心電図波形を診断できる
・除細動の適応を判断できる
・電気ショックを安全かつ確実に行なうことができる
・状況と自分の技能に応じた気道管理法を選択し実施できる
・気道が確実に確保できているかどうかを判断できる
・状況に応じて適切な薬剤を適切な方法で投与できる
・治療可能な心停止の原因を知り、原因検索を行動にできる
ICLSコースの対象
あらゆる医療者が対象になります。これまで、医師、看護師、救急救命士だけではなく、歯科医師、臨床検査技師、医学部学生など様々な医療関係者が受講しています。
医療職ではない一般の方は、一次救命処置の講習会をぜひ受講され、心肺蘇生(心臓マッサージと人工呼吸)法とAED(自動体外式除細動器)の使用方法を身につけて下さい。一次救命処置の講習会については、お近くの消防署、日本赤十字社、救急指定病院等にお問い合わせ下さい。
ICLSコースのこれまでの経緯
検討からコース開催まで
医療従事者向けの蘇生のトレーニングコースとしては、アメリカ心臓協会(AHA)のACLS provider courseが知られています。AHAの提唱によれば、“ACLSコース”とはAHA ACLS Provider Manualに記載された10 caseの内容を網羅しており、講習内容・講習時間がAHA ACLS provider courseに準拠している必要があります。10 caseには心停止のみならず、不整脈や急性冠症候群、脳卒中にいたるまで幅広い内容が含まれています。本学会では、救急科専門医をはじめとする救急診療が日常の業務となる医療従事者は、上記の幅広い10 caseの内容を習得することが望まれると考えています。
一方、本学会では、医師卒後臨床研修の一環としての蘇生トレーニングコース整備が緊要であると考え、2002年度より日本救急医学会ACLSコース企画運営特別委員会(現ICLSコース企画運営委員会)を立ち上げ、研修医のためのコースの標準化を進めてきました。2002年11月の第30回日本救急医学会総会では、日本各地でこれまでコース運営を支えてきた方々が一堂に集まり、研修医向けに一つのコースを開催するに至りました。このコースの内容は、突然の心停止に対する最初の10分間のチーム蘇生に重点を絞っており、当時“ACLS基礎コース”と呼んでいましたが、その後“ACLS基礎(ICLS)コース”と名称を変更しました。
各地での主催コース開催
また本学会では、ACLS基礎(ICLS)コースの普及のためには、コースで指導をする人材を早急に養成することも最優先課題と考え、指導者養成のプログラム開発も並行して行いました。こうして開発されたのが“ACLS基礎(ICLS)コース指導者養成ワークショップ”です。プログラムは成人教育技法に基づき、指導法を身につけることを目的としています。2003年度には、日本救急医学会ACLSコース企画運営特別委員会(現ICLSコース企画運営委員会)が主催して、日本各地で“ACLS基礎(ICLS)コース”と“ACLS基礎(ICLS)コース指導者養成ワークショップ”を開催してきました。
認定制度導入から現在まで
1年間をかけて各地方会でのコース開催が一巡し、コース開催モデルの提示ができたためコースの認定基準を作成し、2004年4月をもって基準を満たすものを本学会の認定“ACLS基礎(ICLS)コース”とすることとしました。また同時にインストラクターの認定基準、コースディレクターの認定基準も決定し、学会や職種の壁を越えて、認定インストラクター、認定コースディレクターの登録作業を進めました。その結果、現在では年間1,000コースを超す認定コースが開催され、受講者は年間20,000名を超す盛況を収めています。
当初、研修医のためのコースとして開発された“ACLS基礎(ICLS)コース”ではありましたが、あらゆる医療職が受講して共有可能なその内容に加え、共通の内容を異なる職種の者が一同となって学ぶというコースデザインが受け容れられた結果、現在では地域におけるチーム救急医療教育の重要な担い手となっています。
名称について
心停止を中心とする1日のコースの名称は、約2年間“ACLS基礎/ICLS”を併用してきました。この間に“ICLS”の名称の周知がはかられたことから、10 caseを網羅した“ACLSコース”との混同を避けるため、2005年度からは単に“ICLS(Immediate Cardiac Life Support)コース”と呼称することとしました。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)が安定した不整脈管理や脳卒中なども含む幅広い循環管理を目指しているのに対して、ICLSの名称には突然の心停止に対して直ちに対応するという意味が込められています。
ICLSコース認定制度では、10 caseの内容を網羅したACLSコースも認定基準を満たしていればICLSコースの認定対象となります。
「指導者養成ワークショップについて」
ICLS指導者養成ワークショップについては各地からの要請によって委員会主催による開催を続けてきましたが、十分に内容が浸透してきたと判断し、2008年度からは指導者養成ワークショップ認定ディレクターの認定を新たに開始して、ワークショップの開催についても認定制度を導入しています。